自分が創り出していない物、自分以外の人、それぞれに法的な権利と保護があることを理解してください。
自費出版の原稿を作るために知っておきたい知的財産権の概要です。
著作権は、思想または感情を創作的に表現し公表された著作物に発生します。これは文化的創作表現に対して、権利者だけに使える権利を与えて保護するものです。つまり著作者の努力に報いることで、文化が発展することを目的としています。
簡単に言うと「自分で作って発表したものは自分のもの」、「自分ではない人が作って発表したものは人のもの」ということです。そして、この著作権には財産権とともに著作者人格権があります。著作者人格権とは、著作者の気持ちに反するような著作物の扱いをしてはならないという権利をいいます。
著作権には、保護期間というものがあり、その間は著作権を保護されます。例外はありますが、保護期間は原則として著作者の生存年間およびその死後70年間です。(著作物の発生から死後70年間)
(1)自分の著作物に他人の著作物を引用
自分の著作物の議論を補強するために、他人の著作物を引用することは許されています。ただし著作者の許可は不要でも詳細な条件があります。「引用」はその字の通り、他人の著作物から「引いて用いる」ことですから、次の条件に従わなくてはなりません。
① 自分の自分の著作物の議論を補強するために、他人の著作物を引用する必然性があること。
② かぎ括弧をつけるなど、自分の著作物と引用部分が区別されていること。
③ 著作物の主従関係が、自分の著作物が主で、引用する著作物が従であること。
④ 出所の明示がされていること。
⑤ 引用元が改変されていないこと。
引用する場合、どのような場合でも表現を改変してはなりません。許されるのは旧字を新字に直すことですが、その場合も「原文旧字体」というような注記をします。明らかに間違った文字や誤植であってもそのままにして、(ママ)という添え字をします。
自費出版にありがちなのは既刊の書籍の文章を主体にして自分の思想やストーリーを書いた場合です。けれどこれは自分の文章が主ではありません。この場合は「引用」ではなく「転載」と見なされます。著者および出版社の承諾を得ずに「転載・無断掲載」をすることはできません。
(2)掲載についての許諾を得る
自費出版の原稿によくある「音楽の歌詞」、「新聞記事」についてですが、文章の中に流行歌などの歌詞を入れている原稿を見かけます。そのまま発刊してしまうと著作権侵害となってしまいます。ほとんどのものが有料となりますがそれぞれ関係機関に使用許諾申請をしてください。
また、自分が取材された新聞記事だからといって、勝手に掲載はできません。なぜならば文章を書いた記者や編集した人、カメラマンもいるからです。基本的には文章と写真のそれぞれに著作権がありますので、使いたい場合は、各新聞社に問い合わせ・許諾申請をします。
なお掲載するときにはクレジット、つまりその新聞記事の発行年月日と新聞名あるいは新聞社名を必ず入れなければなりません。
商標権は、産業によって生産される製品や提供されるサービスの出所を明らかにし、選択を間違わないようにする役割を担っています。商標権の代表的なものとして「文字商標」、「図形商標」、「記号商標」、「立体商標」、「組み合わせ商標」などがあります。例えば商品名や、企業名、マークやキャラクターなどです。
自費出版の際に注意しなくてはならないのは、たとえ小説のようなフィクションであっても、その商標の評価が下がるような記述はできません。
肖像権という名の法令はありませんが、プライバシー権の一部で、容姿やその画像に帰属される人権のことです。大きく分けて「人格権」と「財産権(パブリシティ権)」の二つの側面があります。
「人格権」は、被写体としての権利で、許可なく撮影・描写・公開されない権利、「パブリシティ権」は、肖像を商業的に利用する権利です。タレントや著名人など、その肖像のみでも価値がある場合、勝手に使用することは侵害となります。
注意が必要なのは、写真を本に載せたいときに一緒に写っている人がいる場合です。写真を一緒に撮るのはいいけれど、それを公表されるのは望まないという人も多くいます。また写真撮影をした人が著者ではない場合、写真の著作権は撮影者にあります。
こういった時は、その写真の使用許可や、写っている人への掲載許諾についての確認が必要です。もし確認ができない場合には、自分以外の人や物が写っている部分をカット、あるいはぼかすなどの画像の加工で対応します。
その肖像権ですが、見ず知らずの人がたまたま背景の一部として写っている場合は「写り込み」とされ、肖像権の侵害には当たりません。けれど明らかにその人物にピントを合わせて、一緒に撮影されたものは「写し込み」とされ、肖像権侵害となります。特に注意が必要なのは、たまたま著名人が写り込んでしまい、あきらかにそれが誰か判別でき、尚且つ意図的にその部分も掲載した場合、財産権(パブリシティ権)の侵害となってしまいます。
令和2年の法改正により写り込みの範囲は拡大されましたが、肖像権については相手の人格権に関わる事なので、厳しくなっています。肖像権の侵害については、場合によっては刑事と民事両方の訴訟もあり得るので、安易に扱わないことが大切です。
なお、亡くなった人には肖像権はありません。が、遺族への配慮は必要であるため、使う場合には必ず遺族の許可を得なければトラブルの元となってしまいます。
神社仏閣では写真撮影の可否を、あらかじめ受付付近に記載しているところもありますが記載のないところもあります。基本的に仏像やご神体、拝殿や本堂内部などの撮影はタブーとされています。仏像やご神体などは拝み尊重されるものなので、カメラを向けることは失礼にあたるという信仰上の理由です。鳥居や外観など、多くのところで撮影可能な場所もありますが、どうしても撮影や掲載の必要があれば、事前に撮影許可と使用許可をとるようにしてください(出版企画書の提出を求められる場合もある)。無断で撮影や掲載をして出版した場合、訴訟問題になることもあります。
印刷物を作ってから、その印刷用のデータを欲しいと言われることがあります。この印刷するためのデータのことを、中間生成物というのですが、制作権は印刷会社にあります。
通常の契約内容は、印刷をして印刷物や本などを納品するのが目的で、その目的物に支払いがされます。つまり目的物にするために印刷会社が作ったデータは契約の対象物にはあたりません。印刷会社には作ったデータの保管や廃棄の権利があります。また、印刷用のデータを作るにあたり、外部のデザイナーの著作権も含まれる場合もあるため、著者がお金を出して作ったものだからデータも著者の物、ということにはなりません。
ホームぺージに載せるためにデータが欲しい、別企業から電子書籍の出版を持ち掛けられたのでデータが欲しい、別の印刷会社に増刷は頼むのでデータを渡して欲しいという場合、別途その内容の契約が必要になります。